net-5 【再会】取りあえず。 エルマはそう呟くと、すとんとベンチに腰をおろした。 目的地には、着いた。 それに間違いはない・・・はず。 傍から見れば一種放心状態にも見える。 あながち、間違いでもないだろうが。 なにせ彼らは、大切・・・であろう、友人を「落として」そのまま来てしまったのだから。 彼ら、というのはエルマの他に、―――二人というのだろうか、とにかく―――「聖霊」という種族の絶世の美女ティラカルチュチュ、そして全身を緑色のマントに包んだカルドトラの両名が、やはりふよふよと漂っていたからだ。 もっとも、ティラの方はすでに漂うのを止め、「いつも通り」エルマの頭の上に腰を落ちつかせてはいるが。 あの時、リィが海に落ちたあと。 まるで、嘘のように波は引き、青空が現われた。 そのため、リィを助ける前に、船が先を急いでしまったのだ。 天気が再び、気紛れを起こさないように、と。 「うあー・・・」 エルマが魂を抜き取られるかのように呟くその頭上で、カルドトラがマントの上から頭を掻き毟った。 「だー、くっそお!何で追いかけていかんのやぁっ、エルマのどあほぉっ!!」 「んなこと言ったってよぉ、どうやってあの海の中にリィを・・・」 腑抜けたことを口にしたエルマに、カルドトラはビシィッと効果音が出そうなほどな勢いで、エルマに指を突きつけた。 「泳げ!」 「あほか!あの中落ちたら死ぬに決まってんだろぉ!?」 大声で怒鳴ったエルマに、頭上からの声が降ってきた。 「ちょっとぉ、揺らさないでくれる?くつろげないじゃない」 「くつろぐな!!」 ティラの台詞にエルマとカルドトラが同時に叫んだのは、果たして本当に偶然だろうか。 しかしながらそんなことに気づくこともなく、カルドトラは更に頭を掻き毟った。 「だぁぁ、なんでこんな奴がリィの聖霊なんやぁー!!あぁぁ、リィは大丈夫なんやろかぁ・・・、まさかし死んどるなんてないやろうなぁっ」」 叫んだ後、むしろおどろおどろしい形相で、カルドトラはぶつぶつと呟き始めた。 それと同じように、エルマも暗い表情で何やら呟いている。 「リィがいなくなったらどうやって仕事しよう・・・。カルドトラだけじゃあ手が足りないし、かといってオレは肉体労働嫌だしティラなんか論外だし・・・」 ・・・双方、心配するところが些かずれているものの、心配していることには変わりない。・・・はずだ。 「だぁぁ、リィー!!」 カルドトラが叫んだ直後だった。 「・・・リィがどうしたって?」 「海が荒れてたときに海に落ちてしもうてそのまま・・・あ?」 やっとその声が三人のうち誰でもないことに気付き、カルドトラはくるりと振り返った。 「!!!???」 声にならない悲鳴が、カルドトラの口から漏れた。 「あ?なんだよカルド・・・ト・・・」 エルマも同じように振り返り、その名前が最後まで言われることはなかった。 一瞬、エルマの口元に自嘲気味な笑みが浮かぶ。 その後、視線だけに薄く殺意を覗かせたまま、エルマはさも友好的に微笑んだ。 「・・・ようこそ、“ドラグ・ヴォイズ”のご両人?」 そこに立っていたのは。 紛れもなく。 以前リィを誘拐した、“ドラグ・ヴォイズ”の二人―――イェルダとエンズに違いなかった・・・。 |